健康ひろば

病気の症例や治療法などのご紹介

外科的治療で改善が期待される認知症 -正常圧水頭症- について
『最近うちのおじいちゃん歩き方がおぼつかなくなって転びやすい』
『物忘れが多くなり、意欲もなくなって一日中ぼーとしている。』
『おしっこも失敗するようになった』
この様な方はひょっとすると、皆さんの身近にもいらっしゃるのではないでしょうか?そして中にはお医者さんにかからず、年のせいだからとあきらめている方はいらっしゃらないでしょうか?高齢化社会が進む現在、外科的治療で改善が期待される症状もあります。一度専門医をお訪ねください。
正常圧水頭症とは
認知症といえばアルツハイマー型認知症が有名ですが、その他にもいくつかあります。それらの大部分は外科的治療の対象にはなりませんが、冒頭に挙げたような3つの症状、すなわち
① 歩行障害
② 認知障害
③ 排尿障害(尿失禁)
等の症状が脳神経外科手術で改善が期待される”正常圧水頭症”という病気があります。
水頭症とは脳の中の脳室という部屋が大きくなる疾患の総称で、大きく分けて生まれながらにして脳室が拡大している先天性水頭症、それ以外の後天性水頭症があります。正常圧水頭症は後者に入りますが、その中でも原因不明の特発性と、くも膜下出血・髄膜炎・脳挫傷等の後におこる続発性があり、ここでは特発性についてご説明いたします。
その特徴をまとめると、少し専門的な表現になりますが、以下の点が挙げられます。
① 60才以上の高齢者
② 歩行・認知・排尿障害のいずれか1つ以上を有する(各94-100%,69-98%,54-83%)
③ 脳室拡大
④ MRIで高位円蓋部脳溝の狭小化。シルビウス裂拡大を認める
⑤ 先行疾患が明らかでない
⑥ 髄液タップテストで症状の改善を認める
⑦ 髄液シャント術で症状の改善を認める
ではもう少し具体的にご説明いたしましょう。
歩行障害の特徴
歩幅が減少し、両足の間隔が広がり、すり足になり、特に起立時や方向転換時に不安定で、転倒して手脚や腰骨を骨折して気付かされることもあります。
歩行障害の状態を調べるテストとして、3m up & go test(イスに座った状態から立ち上がり、3m先まで往復して再び同じイスに座るまでの時間と歩数を計測)があります。

歩行障害の改善例1 髄液タップテスト前と髄液タップテスト後

※動画を再生するには、javascriptを有効にしていただくか、Adobe Flash Playerのバージョンを最新に更新してください。

Adobe Flash Player を取得

歩行障害の改善例2 髄液シャント術前(左)と髄液シャント術後(右)

※動画を再生するには、javascriptを有効にしていただくか、Adobe Flash Playerのバージョンを最新に更新してください。

Adobe Flash Player を取得

※プライバシー保護の観点から一部映像処理を施しております。
映像の保存、複製、二次利用などはご遠慮ください。

認知障害の特徴
意識の低下、注意力・集中力の低下、記憶障害が認められるようになります。
各種高次脳機能検査で障害の程度を調べます。
尿失禁の特徴
トイレが非常に近くなり、頻回に行きたくなる。我慢できなくなる。そして間に合わなくて漏らしてしまう、という症状がみられます。
脳室拡大と高位円蓋部の狭小化、シルビウス裂拡大
頭部CTやMRIにて、頭蓋内腔の幅に対する側脳室前角の幅(エバンスインデックスという)が0.3よりも大きく(図1 a/b>0.3)、MRI環状断(患者さんの頭を前から見たように切った撮影方法)で、高位円蓋部(大脳表面の上方)や半球間裂(左右大脳半球の間)の脳溝(脳のしわ)が狭くなり(図2矢印)、前頭葉と側頭葉の間にあるシルビウス裂(図2 三角)が拡大するのが、特徴的所見です。
脳の図
髄液タップテスト
上記のような特徴的所見がみられたら、実際に髄液を排除して症状の改善が得られるかどうかを調べます。
腰椎穿刺でまず髄液圧を測定し、次いで30mlもしくは圧が0になるまで髄液を排除します。その後、歩行障害、認知障害、尿失禁に改善が得られるかどうか、観察します。
治療 -シャント術-
タップテストで症状の改善がみられれば、治療として髄液シャント術を行います。
通常は脳室腹腔シャント術といって、全身麻酔下に頭部に小孔を設け、拡大した脳室にチューブを挿入し、頭皮下に埋め込んだ“圧可変バルブ”に接続します。バルブの他端に別な長いチューブを接続し、皮下を通じて腹腔内に挿入すると、余分な髄液は腹腔内に流れ、腹膜から吸収されます。"圧可変バルブ"は個々の患者さんの身長・体重を参考に、最適な流量になるように圧調整をします。
他に腰椎腹腔シャント術という方法もあります。
入院期間は通常1週間から10日です。
以下のサイトに本疾患に関する情報が詳しく載っています。ご参照ください。
特発性正常圧水頭症ウェブサイト → http://www.inph.jp

認知症について講演する当院 院長 脳神経外科医師 森  宏

燕三条地場産業振興センター

<健康ひろば>
脳神経外科医師 森  宏

このページの上へ